よくあるお悩みシリーズ:「胆泥症」

よくあるお悩みシリーズ:「胆泥症」

ほんとに多い「胆泥症」

みなさまからよくお聞きする、さまざまなお悩みについて

少しでも分かりやすくお伝えするために紐解いていくシリーズ。

症状にのみアプローチするだけでなく、ちょこっと詳しく知ってみませんか?

第一回目の今回は、本当に多い「胆泥症(たんでいしょう)」をほどいていきたいと思います。

毎週必ずご相談があると言っても過言ではない、胆泥症。

当店では栄養面においてのカウンセリングをさせていただいております。

たいていは目立った症状がないので、たまたま健康診断などのエコーで

胆泥があります」と言われて初めて気が付く、なんてことが多いようですね。

胆泥症とは、胆汁の流れが悪くなって(胆汁うっ滞)、粘液状になっていき、泥のように溜まっていく症状のこと。

簡単に1行で書いてしまうとこんな感じですが、その症状の背景には何があるのか。

そこを考えるには、胆汁の働きなど、まずは胆汁について知ることが大切になってきます。

一般的に胆泥症は、ミニチュアシュナウザーやコッカースパニエル、シェルティなど

高脂血症になりやすいと言われている犬種に多いんだとか。

高脂血症とは、血中のコレステロールもしくは中性脂肪、あるいはその両方が高くなった状態を言います。

要するに、遺伝的に脂質代謝に異常が出やすいと言われている犬種に出やすい、ということのようです。

この高脂血症については、また別の機会に書いてみたいと思います。

「泥」ってなんだろう?

さて、胆泥症とは、読んで字のごとく、「胆嚢に泥のようなものが溜まる症状」です。

では、その「泥」とはいったい何のことでしょうか?

泥の正体とは、ムチンという粘液状の物質。

ゼリーのようにどろっとしているので、泥という表現をされているようですね。

このムチンが胆嚢の中で過剰に溜まってくると、胆汁の流れが悪くなり、

それがやがて胆泥症と呼ばれる症状を引き起こします。

ムチンは粘液状なので、流動性に乏しく、そのせいで胆汁の流れも悪くなってしまうわけです。

胆汁にはどんな役目があるの?

ここで、胆汁のお役目を知るために、「消化」のお話をちょこっと。

ごはんを食べると、その食べた物は胃に送られ、そのあと十二指腸に移動します。

その際に胆嚢がぐぐっと収縮し、あらかじめ肝臓で作られた胆汁が分泌され、

膵臓から分泌された膵液とともに食べたものと混ざり、消化を助けます。

この胆汁は肝臓で作られ、胆嚢に溜められています。

胆汁って肝臓で作られるんですね。「胆」って字が入っているので、胆嚢で作られているのかと思いますが、

胆嚢は肝臓で作られた胆汁を溜めて濃縮しておく臓器になります。

胆汁の成分は90%が水分で、その他には胆汁酸コレステロールビリルビンなどが含まれます。

この胆汁酸ですが、一次胆汁酸二次胆汁酸があります。

肝臓で作られるものが一次胆汁酸と呼ばれています。

また、一次胆汁酸が腸内細菌によって代謝されてできるものは二次胆汁酸と呼ばれます。

つまり胆汁酸は肝臓で作られたあとに、腸内細菌にてリサイクルされるのです。

ちなみに、二次胆汁酸には「ウルソデオキシコール酸」というものがあります。

胆泥症でよく処方されるお薬「ウルソ」の主成分ですね。

それから、漢方の生薬で「熊胆(ゆうたん)」というものがあります。

熊の胆嚢を乾燥したもので、熊胆を科学的に合成したものがウルソデオキシコール酸だそうです。

人間の胃腸薬にも使われているようです。

話はちょっとそれてしまいましたが、胆汁の主な働きは、脂質の消化・吸収を助けること。

胆汁は界面活性作用を持ち、脂質を乳化することで、脂質を分解しやすくします。

脂溶性ビタミン類(A,D,E,K)は、この胆汁の乳化作用によって吸収しやすくなります。

ということは、胆汁がきちんと働いてくれないと、脂溶性ビタミンの吸収率も下がるということです。

さて、脂質の消化・吸収のサポート以外にも胆汁のお仕事はあります。

肝臓と協力して老廃物の排泄をしたり、腸内細菌叢のバランス維持に関わったりしてくれています。

先ほどお話ししたように、胆汁酸は腸内細菌によって代謝され、再利用されるとのことでした。

つまり、腸と肝臓の循環をしているため、腸内細菌の影響を受けることになります。

腸内環境が胆汁に影響を与えるので、腸内細菌の顔ぶれも胆汁にとって重要になってくると思います。

症状だけに着目せずに背景を考える

胆汁の流れが悪くなると、粘液状になっていき、泥のように溜まっていきます。

最初の章で、胆泥症とはそんな症状のことである、とお伝えしました。

この章では、「なぜ胆汁の流れが悪くなるのか?」に焦点を当てていきます。

この「なぜ?」を考えることが、どんな症状においても大切だと当店では考えています。

根本原因を見つけることが、健やかな毎日への最短の道であり、またそれ以上の近道はありません。

症状を抑えることが急務なこともありますが、「なぜそうなったか」を考えることにより、

同じ症状を繰り返すことも防げる可能性があります。

なぜ、本来はサラサラであるはずの胆汁の流れが悪くなってしまうのでしょうか?

胆汁の流れが悪くなる原因として考えられることを挙げてみました。

【その①】腸内環境

胆汁と腸内環境は密接に関係しています。

腸管から吸収された栄養素は、門脈というところを通って肝臓に運ばれます。

腸管では、栄養素のみならず抗原性物質や菌体成分も一緒に吸収され、同じく肝臓に運ばれていきます。

肝臓に運ばれた抗原性物質や菌体成分は、貪食細胞などに処理されるものの、

一部は肝細胞から胆汁に排泄されます。ということは、胆汁の中には処理されなかった抗原性物質や

菌体成分が含まれるということになります。

*出典:第 93 回日本病理学会 宿題報告(平成 16 年度日本病理学賞)「肝内胆管の病理-原発性汁性肝硬変(PBC)を中心に-」

ちなみに抗原性物質とは、ウイルスや細菌、カビや微生物、寄生虫などのことで、

菌体成分とは、例えば乳酸菌の場合は乳酸菌を構成している細胞膜や核酸を指します。

そういったものが、胆汁の中に混じっているわけです。

腸内環境の悪化により、抗原性物質が胆汁の中に分泌されることで胆汁の流れが悪くなることについては

まだはっきりと犬においては証明されていませんが、胆汁と腸内環境の関係性を見ても、

可能性としては十分に考えられるのでは、と思います。

【その②】ストレス

ストレスも腸内環境を乱すものとして、上位に挙がってくるものだと思います。

どんなことが愛犬にとってストレスになるのか、日頃から観察して知っておく必要がありそうです。

反応が分かりやすいワンちゃんだといいのですが、案外ストレスの原因が分かりにくいコもいます。

特におでかけは飼い主さんが行きたいから連れていっている場合もあると思いますが、

愛犬にとって実はストレスになっていないか、愛犬の立場になって考えてみましょう。

当店でカウンセリングをしていて感じた傾向なのですが、

胆泥症のワンちゃんは、そうでないワンちゃんたちに比べて、

色んなところにお出かけする機会が比較的多い傾向にありました。

楽しいおでかけであっても、頻度が多かったり、長時間にわたったりすると、

興奮している時間も長くなります。そうすると単純に体力的な疲れも出てきます。

ただし、楽しんでる間はアドレナリンも出て、疲れを感じにくくなるそうです。

すぐその場ではストレスがあるかどうかについては、分かりにくいこともあるかもしれません。

私たち人間も旅行に行っている間は楽しいけど、帰宅してどっと疲れが出る、ということありますよね。

同じことがワンちゃんたちにも起こるということですね。

何事も適度に、あと愛犬の性格を考慮して、というのが良さそうです。

【その③】脂質代謝の異常

胆汁にはコレステロールやリン脂質、胆汁酸などが含まれています。

そのため脂質代謝の異常は、胆汁の性状にも影響を与える可能性があります。

実際に高脂血症の犬では、胆泥症や胆嚢疾患が多いことが報告されています。

【その④】加齢やホルモンの変化

胆泥症は高齢犬で多く見られることも知られています。

年齢を重ねることで、様々な代謝機能やホルモンのバランスにも変化が生じるため、

胆汁の流動性が減少してくることがあるようです。

じゃあ脂質の摂取を抑えるべき?

胆泥があったり、脂質代謝の異常がある場合でも、単純に脂質の摂取を抑えればよいかと

言うとそういうわけでもありません。

脂質はエネルギー源としてだけでなく、細胞膜やホルモン、胆汁酸の材料にもなる大切な栄養素です。

胆泥があるから、と脂質を抑えすぎることで、胆汁が乳化するはずの脂肪が入ってこなくなります。

そうすると、胆汁が使われにくくなり、さらに胆汁がうっ帯する可能性もあります。

また、胆泥があることで脂溶性ビタミンの吸収率も下がってしまいます。

脂溶性ビタミンとは、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKですが、

これらが体にもたらしてくれる恩恵は軽視することはできません。

【脂溶性ビタミンそれぞれの働き】

ビタミンA・・・皮膚や粘膜を健康に保つ。夜間視力の維持。免疫機能向上。

ビタミンD・・・骨の形成や強化。免疫を高める。がん抑制。細胞間の情報伝達。

ビタミンE・・・抗酸化。免疫を高める。がん抑制。

ビタミンK・・・血液凝固(止血)。骨へのカルシウム沈着。

このようにそれぞれの脂溶性ビタミンの働きを見ても、かなり重要だと分かりますね。

そのため、必要以上に制限することで、別の不調につながる可能性もあります。

大切なのは脂質を悪者にすることではなく、そのコの今の状態に合わせて

適切な量や種類を考えていくことではないでしょうか。

脂質の量だけでなく、脂質の質(酸化していないもの)にも目を向けてみる価値はあると思います。

今日のまとめ

ここまで、胆汁の働きや腸内環境、ストレス、脂質代謝との関係について見てきました。

ちょっと難しい言葉も出てきましたが、いかがでしたでしょうか。

胆泥症というと、「胆嚢に泥が溜まる病気」というイメージがありますが、

実際にはそれだけではないのかもしれませんね。

腸内環境の変化、ストレス、脂質代謝の異常、加齢による体の変化など、

さまざまな要因が重なった結果として胆泥が形成された可能性があります。

胆泥だけを見るのではなく、「なぜ胆汁の流れが悪くなったのだろう?」という視点で考えることは、

とても意味のあることだと思います。

当店のカウンセリングでは、胆泥症という診断名だけを見るのではなく、

ワンちゃんの食事や生活環境、体質や日々の様子などをご家族と一緒に確認しながら、

その背景にある栄養面での原因を探していくようにしています。

症状だけを追いかけるのではなく、体の仕組みや変化に目を向けること。

それが、健やかな毎日につながる第一歩ではないかなと思います。